夫婦ですが何か?Ⅱ
Side 茜
ああ、怠い。
そんな事をぼんやりと思ったと同時、空腹の胃が切なげな音を立てて更に切なく息を吐いた。
すれ違う社員が皆同じような驚愕を見せて自分を振り返って、そんな視線も早々に飽きて自分のテリトリーの部屋に足を踏み込めば。
「おはようございます」
「っ・・・・最悪・・・」
「常識的に言えば、まずは朝の挨拶を返すのが妥当ではないでしょうか?ああ、でも・・・・・・・・常識的な人間であればそんなキチガイな姿で出社しませんね」
いちいち嫌味をつけ加えるのは常識的な人間のすることなのか?
そんな悪意の眼差しを送ってみても、サングラス越しでは上手く伝わらず。
サングラス無しにもこの男には通用しないのだと諦めて息を吐く。
「今日は何ですか?何かコスプレ大会でも?それとも会社を舐めておられますか?」
「・・・・・君の元カノ様への愛の為です」
「ああ、なるほど。・・・・・つまりはまだ拗れて捩れて更に事態は悪化していると予測しました」
「っ・・・・本当に腹の立つ」
言葉を弾く度にこちらを刺激するような一言を言う男に舌打ちを響かせて、でも同時に鳴った腹にその憤りも沈んでいく。
腹へった・・・。
「で?とうとう食事も作ってもらえない程千麻に愛想つかされたと?」
「別に・・・、そう言うのとは違う」
言いながら自分のデスクに荷物を置いて、すぐに外出する予定の体を一瞬でも休めようと椅子に投げ出す。
SANCTUARYの撮影。
朝から取り掛かるそれの様子を見に行く予定である今日。
それに同行する為に、普段は雛華の秘書であるこの男が自分の部屋で待機していたわけで。
ものの数分で、何が悲しいのかこの男と並んで出かける羽目になるのだ。
行きがてら何か軽食を買おうか。
簡易栄養食でもいいし。
そんな思考をしながら座ったばかりの体を渋々立ち上げ何度目かの溜め息。
「・・・・幸せ逃げますよ」
「もう充分に逃げてる」
「その幸せ・・・俺のところに逃げてこないでしょうかね?」
「そんなの全力で阻止するし。ってか、いい加減他にいい相手いないのかよ!?」
「・・・・・欲求を程よく埋める相手としてなら数人は。でも、生活を共にしてもありのままでいられるような相手はまだ、」
「・・・・・人生楽しい?」
「ええ、自分なりに謳歌して日々を過ごしてますが?」
にっこりと言い切られた言葉に、それ以上言いたい事は浮上しない。と口を閉ざす。