夫婦ですが何か?Ⅱ
「久しぶりなのは・・・茜くんの意図的でしょ?」
「まぁ・・・、顔を合わせずらかったし、」
「・・・念願叶っての再婚だものね」
相変わらず全てに興味なさげに言葉を発すると感じる。
視線でさえもう俺ではなく自分の爪先を見つめていて、洒落っ気のない眼鏡の向こうの長い睫毛が印象を強くして。
やはり重ねて見える姿に後ろめたさを感じた。
「昨日・・・奥さんと会ったよ。・・・千麻ちゃん?」
「・・・聞いたよ。でも、今までだって挨拶程度には言葉かわしてたんでしょ?」
「うん、この人が茜くんがグダグダになる程好きになった人かぁ。・・・って、ね」
「・・・別れる前だって見かけてたでしょ?」
「知らないよ。見かけてたけど茜くんが惚れ込んでる事情知ったのはその後だもの」
見つめていた爪の先をロングのパーカーワンピースのポケットに収納し、その視線をエレベーターの文字盤に移す彼女をぼんやり見つめ。
それでも言われた内容にその過去の瞬間を思い出して心の動揺。
だけども空間同じくする彼女はさして意識なしの姿に、自分も平常心取り戻すように視線を同じく文字盤に移していった。
あと数階。
下降する数字を見つめこのどこか緊張する空気もあと僅かだと心底安堵して、煩わしい1階までの間の数字を何とか飛ばせないものかと馬鹿みたいな思考を巡らせていると。
「・・・・届いた?」
凛と響いた言葉は主語がない物。
それでも瞬時に理解し驚愕のまま双眸見開いて彼女を振り返れば、彼女ときたら分厚い扉に視線は固定だ。
それでも聞き流せないその言葉に確信を持ちつつ疑問を投げかける。
「あれ・・・莉羽ちゃんが送ってきたの?」
「・・・・誤解しないでよ?根本は私がしたんじゃないの。ただ・・・はみ出して見えてたそれが明らかに不自然なもので茜君の性格からしたら・・・・見せたくないんじゃないかって・・・」
「・・・・ありがとう、」
「【ありがとう】って言う顔じゃない。・・・・恐いわよ?」
分かってる。
自分の表情が確実に千麻ちゃんや翠姫に見せられないようなそれだって。
でもその対象はこうして隣り合っている彼女でもなくて、その対象がまだ断定出来ないから更に焦燥感交じりの憤り。
今できる予防線は張ってあるといえど、不完全なそれは決して安堵出来る物じゃない。