夫婦ですが何か?Ⅱ
「あっ、美味しい、」
「だよねぇ。千麻ちゃんの作るご飯って隠し味が絶秒で、」
「うんうん、千麻って本当に料理上手なんだよねぇ」
「今更褒めたところで何も特別な物は出ませんよ」
ビールを飲みながら渡した筑前煮に舌鼓を打っていた拓篤が大げさな感嘆の声を上げて。
それに倣えで同調しテンション高く熱弁する彼。
別に特別意識して作っているわけでもないのに、2人とも大げさな。
そう思えど賞賛されることに悪い気はせず、どこか心の奥で小さく歓喜していれば。
「・・・・・私も作れるもん、」
不意に静かに響いた不貞腐れたような声に、無駄に沸いていた空気が一気に沈んだ気がする。
隣に立つ声の主を振り返れば、無表情でビールを一口飲んでいる瞬間で。
でも、見て分かるのはその無表情は無とは言いきれないという事。
何だろう?多少の・・・・不愉快?
それを感じ取っているのは私だけでなく、会話の流れのままの笑みを何とかその顔に張り付け、でもその空気の変化に硬直している2人も一緒。
一瞬静まった空間に紅さんがビールを飲みこむ音だけがリアルに響いて。
次いで先陣を切って声を響かせた彼にこの時は尊敬と感謝。
「ね・・ねぇ~、紅ちゃんの作るスープもめちゃくちゃ美味しいよねぇ」
「そ、そうですよね。私も一口頂きましたが感動しましたし、こうやってレシピも望んだぐらいに」
「へ、へぇ・・・そっか、そんなに絶賛するんなら、・・・美味しいんだろうねぇ」
必死で紅さんを立てるようにフォローを響かせて、そのフォローに戸惑いながらも、言った言葉は本心であろう拓篤が最後にはふわりと微笑んで。
チラリと様子を伺った彼女は相変わらず無表情だ。
でも、どこかピリピリとしたものは取れたように感じる。
さすが拓篤の癒しパワー。
それにしても、紅さんもこんな風に対抗意識示す時があるんだなぁ。と、珍しい変化に不思議に思いながら次なる料理を出していく。
それにいち早く反応したのは
「あっ、鯵のなめろうだ!」
「拓篤好きだったでしょ?」
「うん、うん、わぁ、覚えてくれてたんだぁ」
「ちゃんと大葉も刻んでいれたから」
「うわぁっ、嬉しい。千麻の作る物は本当に美味しくて、変に舌が肥えちゃって他のじゃなかなか満足しないんだよね」
「・・・・必要ないじゃない」
デジャブ・・・。
響いた声が物凄く鋭利な物に感じたのは私だけだろうか?