夫婦ですが何か?Ⅱ
「莉羽に子供出来ちゃって。子供がいたらさすがに今までみたいに気分でついて離れてはまずいでしょ?」
コトンッと榊がカウンターに置いたグラスの音が響く。
・・ほど、静まった一室。
唯一動きを見せていたのは関係性のない紅さんだけで、マイペースにも冷蔵庫を開けライムと炭酸水を取りだしている。
「だからさ、あの部屋・・・・買ってくれない?拓篤さん。それがご祝儀代わりでもいいよ」
「って、ご祝儀代りって、どんだけ高い祝儀期待してるの!?マンション買う金額の方が安いの!?む、無理無理無理っ、僕そんなお金ないもん!!」
「またまたぁ、ゲームクリエイターとして結構稼いでるの俺知ってるよ」
「っ、マンション買うならそのお金趣味に投資したいもん」
「その趣味収納する広い場所も必要だと思うけどなぁ」
これは・・・提案というよりは・・・悪質な押し売りでは?
そんな事を思いながら確認する様に彼に視線を向けてみると、絡んだ瞬間に2人に見えないように手を横に振った彼。
その意は、
『関わるな、巻き込まれる』
が、正解でしょうか?
確かに下手に口を挟めば火の子が来そうだと、追い詰められている拓篤は気の毒と思えど口を閉ざして。
紅さんも自分のペースであの独特なライム味の酒を氷を鳴らしながら飲んで眺めて。
今や我が家で声を発しているのは拓篤と榊の2人という状況。
拓篤がウンと言うまで帰らなそうだな。
そんな事を思った瞬間。
部屋に再び鳴り響くチャイム。
でも今度はエントランスだ。
そう意識した時には彼がすでにインターフォンのモニターを確認して、それでも特に言葉を発することなくカウンターに舞い戻る。
「・・・・誰だったんですか?」
「ん?・・・うん、間違い・・みたい」
我が家への来訪ではないと示した反応。
でもどこか不自然なそれに、目を細めて疑いをかけて。
絡まないように視線を料理に落としている彼は貝の如く。
何だ?
今度は・・・・どんな賑やかさが?
と、言うか・・・誤魔化す理由が分かりません。
理由の分からない彼の反応や、目の前の押し売りの賑やかさ、胎教にあんまりよろしくないな。と、溜め息を零した。