夫婦ですが何か?Ⅱ




そうして、他愛のない騒ぎを聞き入れ数分。


ん?


なんか今・・・。


微かに聞こえた音に反応して、それを確認するように首を捻る。


それを更に確認しようかとその身を僅かに動かしたけれどすぐに静止。


捉えた彼がそれを求めて唇に指をあてたから。


静かに。と、いう様な合図に疑問を感じても従って、本当に何事なのかと眉根を寄せると。



「突如の訪問失礼します」



開いたリビングの扉と、直後に静かに低く響いた声音。


静かだけども重くも感じて。


あまり聞きなれない声音の主を振り返って捉えたのは、やはり見慣れない、けれど見覚えはある。


そして自ずと理解した彼の不自然。


ああ、なるほど。


誤魔化したかった相手は、



「紅・・・」


「嘘・・・・なんでお父さん?」



成程、


紅さんであっても実父にはその無表情も崩れるんですね。


我が家には・・・少なくとも、私が住んでからは初めての来訪であるその人は紅さんの父でSANCTUARYの現代表様だ。


私も久々にその姿を見たと思うと同時、久々なのに久々と感じない、時間の流れが止まっているかのようなその人にうっかり見惚れて接客も忘れるほど。


さすが紅さんの父。


いや、この父あって紅さんの美が存在するのかとも納得。


漆黒の艶やかな髪と人工的だけども妙に自然に感じるパープルアイ。


自身もSANCTUARYのモデルを務めていた経緯のある姿はスラッと高身長で。


眉目秀麗な大道寺の面々にこの一族なら対等に立ち向かえるだろうと思ってしまう。


どちらかと言えば・・・好みを語れば暁月の顔の方が好きだな。


彼にバレては厄介な本音を心で呟いて、ただ成行きを見守るように口を閉ざして自分の身を壁に避ける。


紅さんに近づこうと動きだした相手の為に。


そんな突如の来訪者に一瞬は驚愕していた紅さんが冷静が回帰したらしく不満げに彼を睨んで。



「茜の裏切者・・・」


「っ・・・だって、だって蓮さん超恐かったんだもん!翠君の気迫なんて可愛いって言えるくらいに」



非難の声に見事怯んだ彼が焦って言い訳して。


それでもその言い分は頷ける。


表情や態度にこそそれを目に見えて出していないけれど、内に秘めた遺憾をオーラに出して静かに存在する人。




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