夫婦ですが何か?Ⅱ
でも、薄すぎたそれは・・・、
「ほ、本当に無理です。ってか、駄目ですよ、未婚でまだまだ売り時な女性が僕みたいに世間のはみ出し者みたいな男と一緒に暮らすとか、」
「・・・・どこの時代錯誤よ?・・・・まぁ、いいわ。この手は使うのは卑怯だと思ってたけど、」
「へっ?」
「・・・・・・慰謝料、」
「っ・・・」
「それを払ったと思えば・・・・安い上に平和的な示談だと思わない?」
「っーーーーー」
「・・・・・・・私、・・・・そんなに安い女じゃないのよ?そんな私に昨夜・・・」
「っ・・・了承です」
あ、
決壊。
虚しく荒波に押し流された拓篤を見た気がした。
どうやら私達が把握していない時間がこの2人にはあったらしく。
そしてどうやらそれは拓篤には都合の悪い事実らしい。
落胆しながら了承した拓篤と対照的に、稀に見る笑みを浮かべてそのまま父に視線を動かした紅さん。
「と、話がまとまったわ。こんな風に今時古風な奥手男子だし、隣には茜が住んでる。
心配性なお父さんでも少しは安心できる条件じゃない?」
「・・・・根本的におかしいだろう。お前のそのよく分からない強引さには本当に頭が痛くなる」
「だって、人生はインスピレーションと勢いだって詩音君が、」
「あの馬鹿の言葉は名言じゃなく【迷】言なんだから聞き入れるな」
深い深い溜め息と、苦悶を示すように眉根を寄せた蓮さんが、それでも娘を理解しているらしく。
数秒目蓋を閉じた後にゆっくりと紫を覗かせて、そのまま拓篤をチラリと確認するように見つめ。
その視線に休むことなく拓篤が怯む。
なんて・・・不運な。
一体どんな展開になるのかと息を飲んでその光景を見つめ。
不意に静かに動きだした蓮さんが、ポケットから財布を取り出し、更にその中から名刺らしきものを取りだすと。
「・・・・娘の我儘に対するホットライン」
「・・・・えっ・・とぉ・・・」
「家主として、娘の奇行に困ったり何らかの被害があったらいつでも、24時間対応するから」
蓮さん。
『娘が』なんですね。
『娘に』何かするな!的な念押しでなくて。