夫婦ですが何か?Ⅱ
どれだけ娘の奇行に振り回されてきた35年なのだろうか?
これだけ容姿端麗な娘が知りあって間もない男と同棲しようとしているというのに。
でも、まぁ、拓篤と紅さんのこのやり取りを見ていれば、拓篤がそこらの軽薄な男子とは違うとさすがに感じたのか。
今だって本来であるなら強引な要求をした紅さん側の方が頭を下げる場面なのに。
営業で仕事の取れたサラリーマンの如く、深々と頭を下げて名刺を受け取る拓篤の姿。
タネを撒いた紅さんと言えば我関せずに満足そうにお酒を煽って。
そんな光景を、気がつけば呆れも混じった半目で見つめてしまって、そのまま彼に移してこの光景を指さして。
『いいのか?』
と、いう私の謎かけを間違える事なく察知した彼が苦笑いでその手を横に振る。
『どうにも出来ない』
そう言いたいとみた。
まぁ、確かに・・・、
紅さんの我儘に対応してくれそうな父親まで匙を投げたような場面。
哀れにも拓篤がその被害を負う事で紅さんの機嫌が保たれ被害が縮小したのだ。
でも、
今後どうなるのか見ものでもある。
そんな事を意地が悪くも考えて、項垂れている拓篤を眺めていれば。
くるりと向きを変えた蓮さんが数歩歩みを寄せると私の前に立ちはだかって。
長身と言えるその姿を見上げれば、逆に屈んだその人の顔と至近距離で見つめあう形になった。
おおっ、これはさすがにドキリとする。
ふわりと香った匂いでさえも悪阻が始まっているのに気分を害さないような。
決して若いわけでない、それでも逆にその落ち着いた雰囲気が自分の好みに合う様な。
そう、容姿での好みを言えば・・・、ストライクだ。
だけども、あまり面識のないこの人にこんな風に至近距離から覗き込まれるほど親しい記憶もない。
では何故こんな風にしっかりと何かを確かめるように見つめられているのか。
私の目というよりは顔全体を眺め、更にチラリと視線を体に走らせて。
この人でなかったら『セクハラ』だと詰っていたかもしれない。
それでも、詰るまではせずともさすがに気になって声を響かせると同時。