夫婦ですが何か?Ⅱ
「蓮さん、透さんにチクリますよ」
自分の声を遮って響いたのは、いつもよりは気迫の半減している不愉快な彼の声。
透さんと言うのは多分蓮さんの配偶者であろう。
それに反応して振り返った蓮さんの視線に更にウッと気迫負けしているのが見受けられる。
恐いなら言うなよ。
そんな呆れた言葉を頭で呟いて、言われた蓮さんは余裕ありにフッと笑って。
「いや・・・、本当に紅のせいで彼女に負担かけたのかな?って、」
改めてそう感じたように言葉を告げた蓮さんが、再び私を振り返って上から下に視線を走らせ。
「何週?」
「はっ?」
「前に会ったときより痩せてるし、普段から食べないタイプだね。悪阻が強い体質なら・・・食べれる今の内にしっかり栄養取っておいた方がいい」
さらりと告げられたのは自分でも今日判明した妊娠への注意事項。
撮影時にで彼が浮れて発表したのかと、驚愕のまま彼に視線を走らせれば。
捉えた彼も唖然としながら蓮さんの姿を見つめていて、つまりは何の前情報もなく、私の姿からの予測だったらしい。
なんて人なんだろうか。
驚きと感心の眼差しで蓮さんを見つめ直すと、視線が絡んだ直後にふわりと微笑む。
うっかりドキリと心臓が跳ね、どこか奥に着火したらしい熱が一気に顔にまで移行して。
思わず逃げるように顔を下に向けてしまえば。
ああ、面倒。
厄介な男の反感を買った。
「ハニー・・・、何らしくなく乙女に照れ隠ししてるのかな?」
「申し訳ありませんが、あなたが何をどう私を捉えていたのか存じませんが。私はこれでも一応乙女という響きを正当に振りかざしていい女という性別である生き物なのですが」
「知ってるよ!だから俺と繁殖してるんでしょ!?」
「セクハラ発言は胎教に悪いのでお止めください」
「っ・・・」
印籠の如くだ。
しばらくはこの言葉で彼の面倒な食いつきを制することが出来ると、心の中でほくそ笑んで腕を組んで。
そんな私達が面白かったらしい蓮さんがクスリと笑うとその身を動かし廊下に向かう。
「あれ?蓮さん帰るの?」
「生憎・・・いや、ありがたい事に忙しい身なんだ。今日撮影した写真を確認して厳選しなきゃだし」
言いながら溜め息をついた姿に疲労を垣間見て、確かに大がかりな撮影後の今はその仕事もまだピークに忙しいと言えるのだろう。