夫婦ですが何か?Ⅱ



深い溜め息をついて再度部屋を見渡してから口元に軽い弧を描くことで退室の挨拶とした蓮さんが、入ってきた時同様に静かにさらりとその気配を消していき。


その姿を我に返ったように彼と追いかけ玄関まで進んで、靴を履き終わった蓮さんとゆっくり対峙して。



「・・・・本当、娘の無自覚な天然奇行に迷惑かけたね。・・・いや、まだ今後も・・か、」


「まぁ、今後大幅な被害を受けるのは拓篤さんだろうけど」


「彼は・・・・紅に気にいられて不運だったとしか言い様がないな」


「多分、蓮さんの携帯の着歴、しばらく拓篤さんで埋まるんじゃない?」


「まぁ、その位は微々たる迷惑料に当たるだろう」



電話相談くらい然したる問題ではないと、溜め息交じりにも軽く笑った蓮さんがようやく玄関扉を開けその身を出し始め。


忙しい身である事を理解しているから今度は引き止めることなく、突然の訪問は静かに終幕。


パタリと玄関扉が閉まる音がして、その場に静寂と薄暗さが広がった瞬間。



「・・・浮気者」


「言われると思いました」


「何なの?あの滅多に見せないうっとり顔」


「別にうっとりはしてませんが」


「でも、僅かにも乙女な千麻ちゃんが疼いてたでしょ?」


「それは違います」


「えっ・・・あっ、そ、そうなの?ごめん・・・えっと疑っーー」


「僅かというよりは・・・一晩でいいので相手願いたいくらいにどストライクだと思ってました。・・・・今なら妊娠の恐れもないし」


「・・・・」


「・・・・すみませんが・・・冗談なので本気で泣きそうに壁に向かわないでください」



勿論、本気の願望ではなくてちょっとしたアイドルに抱くような欲求や妄想の類であったのに。


見事その一言に言い返せないくらいの衝撃を受けたらしい彼の目に見えた落胆。


壁に対面しあえてその顔を見せない姿に、一瞬本気で泣いてるんじゃあるまいか?と、同情より呆れの眼差しでその背中を見つめ。


仕方ないと溜め息をつくと、我が身だけをリビングに向け歩みを進めた。



「ちょっと、フォローもなし!?」


「今更何のフォローが?」


「俺今めっちゃ精神的にショック!プライド粉々!」


「はぁ、そうですか・・・」


「軽・・・、」


「だから、冗談ですってフォロー入れたじゃないですか。これ以上どんなフォローが?」


「・・・・・・『本命はダーリンだけよ』みたいな」


「・・・・それって浮気者の常套句みたいですね。つまりあなたが本命であれば浮気は認知すると?」


「・・・『好きなのはあなただけ』に変更で」


「・・・・・・・・『Sっ気たっぷりに虐めたいくらいに愛してるわダーリン』」


「っ・・・」



馬鹿、だからMだって言うのよ。


こんな一言に歓喜していともあっさり満面の笑みを見せないで。


顔赤いし・・・。

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