夫婦ですが何か?Ⅱ




『出直し』の間もなく塞がれた唇が、濃密なそれでなく言葉の返答にように柔らかく返されて。


それにまんまと絆されて、抱いていたつまらない不貞腐れも徐々に消火される。


気がつけばキスを交わしながら壁に誘導されていて、トンと背中に感触を得たと同時に彼の背中に手を回す。


掴むように指先を曲げて、彼の服に皺を広げて更に抱き寄せて。


濃密ではないけれどその重なりをなかなか解けずに啄むようなキスを重ねて。


ああ、困る。


気がつけば馬鹿な程この男に惚れ込んでいる自分がいるのだから。


そう、こんな状況も感情も未来予想に無かった。


あり得ないと思ってた。


結婚なんて、


夫婦なんて、


子供が出来て【家庭】を作るなんて。


もっと言えば・・・、


小憎たらしい上司であった男と。



「千麻ちゃん・・・」



腹が立つのは・・・


その声に呼ばれて、


その匂いに包まれるのに至福を感じる自分。


そんな事・・・言いませんけどね。


ようやく離れた唇が弾いたのも余韻たっぷりに甘い響き。


心底愛おしそうに私の名を呼ぶ彼を確かめる様に見上げて、今更ながら彼の妻なのだと実感する。



「・・・・・賑やかになりますね」


「えっ?」


「家の中も、・・・近所も」


「あ、ああ、ははっ、うん」


「まさか・・・紅さんが拓篤を気にいるとは」


「俺達の知らぬ間に何があったのかねぇ」


「榊さん夫婦も【再】に打ち止めみたいですし」


「うん、そういや・・・出産時期被るかもね」


「莉羽さんが母・・・・申し訳ないんですが想像がつかないです」


「あはは、うん、俺も」



他愛のない会話。


その間もお互いを抱き寄せたまま存在を確かめて。


無作法にも来客をリビングに放置したまま、自宅の廊下で抱擁を続けて。



「・・・・また、・・・あなたの傍で仕事の役に立つ場面が遠くなりました」


「うん、父さんはがっかりだろうね」


「あなたはがっかりしてくれないという事ですか?」


「勿論、がっかりだけど・・・、仕事よりパパとして得た物の方が大きくて嬉しいから」


「・・・・・私も・・・・嬉しいです」



本心を濁すことなく、無意識に零して腹部に触れて。


フッと顔を上げると彼の驚愕とまでは行かずとも呆気にとられた表情と対峙。


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