夫婦ですが何か?Ⅱ
いったいどういう意味でのそれなのか、こちらもきょとんと見つめ返せば。
「ちょっと、驚いた」
「何でですか?私が妊娠に喜んでいないとでも?」
「ううん。喜んではいるんだろうけど、千麻ちゃんが仕事復帰に張りきってたのも知ってるからさ。どこかがっかりしてる部分があるんじゃないかと思ってたんだ」
「まぁ、・・・そうですね。これでまた・・・現役復帰にはリスク高くはなりましたけど・・・」
でも、
全然悔しい気持ちや焦りはなくて。
妊娠が判明した瞬間は歓喜一色。
すぐに気の早い感情に満ちて、性別の事や、彼似がいいとか、翠姫はベビーベッド卒業だとか。
微塵も仕事への項目が浮かばなかったその瞬間。
いつの間にか・・・、
いや、あの時から自分のベクトルは完全に方向を決めていたのだ。
『可愛い2人目考えない?』
結果的にあの言葉の前に妊娠は成されていたけれど、もししていなくても私は仕事よりもきっと妊娠を選択していて。
遅かれ早かれこうやって彼との子供の存在を意識してお腹を撫でてていた筈。
「私も・・・仕事であなたと高みを目指すことより、夫婦としてそれを目指すことの方がよりやりがいがあって。・・・安定していたり、予想もしないハプニングが起きたりの生活の方が価値があるように感じて、」
「・・・・」
「なんて・・・秘書としては失格ですね。仕事の向上が二の次なんて、」
本当は特別その感覚に罪悪感も後ろめたさもなく、どこか誇りに思っているのに彼の前では嘲笑を漏らして引け目を見せて。
さすがにそろそろ室内に戻ろうと、あと数歩のリビングの扉に視線を移した自分の耳に
「合格点でしょ」
「・・・・」
「でも・・・秘書としてじゃなくて・・・妻として母として」
ニッと口の端をあげて屈託のない笑みを私に落とした彼が、褒めた耐えるように私の頭をクシャリと撫でて。
どんな子ども扱いだと挑むように見つめたけれど、正直な胸の内は心底歓喜に満ちているのだ。
困るわね。
本当、もう秘書としては有能ではないかもしれない。
秘書として仕事面で褒められていた過去よりもずっと、比べものにならないくらい、あなたの妻として賞賛され労われるのに歓喜に満ちるの。