夫婦ですが何か?Ⅱ
翠姫を妊娠した時よりも強烈な悪阻に襲われていたのはつい先週まで。
吐く一方でまともに食事もとれず、元々軽いその身がさらに軽くなっていくのに、彼も仕事どころでないと頻繁に電話をよこして。
あと1キロ落ちたら入院だと宣言されて、やむを得ないのかと鞄に荷物を詰め込んで待機までしていたのに。
不意に軽減した倦怠感。
同時に回復しすぎた食欲で、今までそんなに欲しなかった物までおいしそうに見えて誘惑に負けるから不思議だ。
今も一つじゃ飽き足らずまさかのダブルで注文したアイスをイートイン席で頬張って舌鼓。
手持ちぶたさから鞄の中の母子手帳を取りだすと、中に挟まっていた写真を取り出し確認するように眺めてしまう。
小さくとも形になっていて、今日はこちらに顔を向け蹲っている姿。
母親がどんなに悪阻で苦しんでいようが、順調も順調。
出血なんかもなく、平均的に大きくなっている我が子に満足するように腹部を撫でて。
そんなタイミング計ったようにポコンと中で小さく反応。
2人目になれば理解する。
空気が動いたような微々たるそれは小さいながらも胎動なのだと。
その胎動を感じる程に元気なのだと告げられているようで安堵して。
また一口欲求を満たすべくアイスを口に運び、その甘さに酔いしれていたタイミングに。
鞄の中で震える携帯のバイブ音に気がつき、スプーンを咥えたまま取り出し一応確認。
かけてくる相手はもう予測済みで、その予測を裏切らない表示にスプーンを外して口の端をあげる。
【ダーリン】
ようやく【副社長】から格上げされた表示を捉えながら、早く出ろと鳴り続けるそれをタップして耳に当てると。
『おはようハニー』
「・・・・嫌味ですか?確かに朝起きれずに気がついたら出社後でしたが」
『あはは、だって千麻ちゃん笑っちゃうくらい何しても起きないんだもん。いっそ眠ってる間に子供増やしちゃおうかと思ったくらいに』
「セクハラです。いや、DVですね」
『だってぇ、寝顔が恐ろしく可愛くてさぁ。ってか、寝てる時に抱き枕的に俺に縋りついてくるあれは何?その度に欲求疼いて仕方ないんですけど』
「だから・・・まさに抱き枕的に感じて巻きついてるだけかと」
そんなの、意識的にじゃないし、抱きついてた事実すら知らないし。