夫婦ですが何か?Ⅱ
目的もない会話をしながら再びアイスを口に運んで、スプーンが歯に当たるような音を聞いてか、彼の興味がそちらに惹かれたらしく。
『ん?千麻ちゃん何か食べてる?』
「はい。アイスをダブルで頼んで帰宅途中の一時休憩です」
『おお、いい傾向。なんなら追加して5段盛りなんてどう?』
「確実にお腹壊しますね。それに、どうせ食べるなら今度は甘いものでない方が、」
『俺なんかどうだいハニー?』
「・・・・・吐いていいですか?」
『何でだよぉ。BitterSweetな俺なら千麻ちゃんの心も体も満たしてあげられるよ』
「いちいち言い方が気持ち悪いです」
『そんな俺に惚れ込んでるくせーーー』
『に』が多分最後の言葉だったのだろう。
それを聞き入れるより早く通話終了をタップすると何食わぬ顔でアイスを口にして。
当然すぐに鳴り響くバイブ音に無感情で応答すると携帯を耳に戻していく。
「はい、」
『酷くない!?いきなり切る!?』
「なんか・・・・悪質なオレオレ詐欺めいた成り済ましの変質電話かと思いまして」
『普通に今まで会話してたのに!?』
「もういいですから。で?本題は何なんですか?」
『ん?千麻ちゃんの声聞きたくなっただけ』
「・・・・仕事お願いします」
呆れた感たっぷりに自分の声を響かせて、彼には見えていない表情にもそれは充分に現れる。
勤務時間で決して暇な時間ではないと思うのに、現役秘書は何をしているんだ!?と怒鳴りこみたいほど。
でも、現状は言う以外どうにもならず、呆れた顔で頬杖をつきながらアイスを一口頬張ると。
『だって、千麻ちゃんの声聞かないと始まらないし』
「・・・・」
『それにまだ心配なんだよ?いくら子供は元気でも千麻ちゃんが痩せ細って体力なかったらダメでしょう?』
「・・・・・・・こうして・・・食べてますからご心配なく」
『うん、安心した』
容易に想像がつく。
この言葉を弾いた彼はふわりと安堵の笑みを浮かべていると。
ここ数週間、吐き続けて動く気力もなかった私を本気で心配していた彼だから。
回復を見せてきた今であってもまだ不安で、こうして確認することでようやく彼も安堵するのだろう。