夫婦ですが何か?Ⅱ
ーーーーONE DAYーーーー
「千麻ちゃんの、俺への第一印象ってどんなだったの?」
そんな言葉を投げかけられたのは土曜日の早朝。
お互いに何故か早く目覚めてしまって、それでも布団の温もりからなかなかその身を出せず、ずるずると横たわってお互いにちょっかいをかけたり。
そんな事をしていれば必然の様に貪欲な2人の時間になって。
すでに軽くフットワーク済ませた余韻の時間。
夜のそれよりは濃密でなく、じゃれつく延長の様な行為にはさほど疲労もせず。
僅かに熱を持った体を彼が背後から柔らかく抱締め、会話をするでもなく息を整えていたような。
そんなタイミングの投げかけだったのだ。
何故突如そんな事を?
そう疑問に思っても、問われた内容の返答もしっかり探すように記憶を回想して。
途中、微笑ましくない彼との記憶も通過し遠く長い原点を探して。
フッと脳裏によぎる。
「・・・・・・髪・・・明るいな。で、しょうか」
「か、髪なんだ。初めて注目したのが髪?」
「あとは・・・、秘書のお姉さま方に囲まれ、調子よく愛想振り撒いてる・・・・後ろ姿だと」
「後ろ!?」
「で、髪も明るいし・・・今時の若者でちゃらいなぁ。・・・と」
「なんか・・・本当によく結婚したよね俺達」
「まぁ、最初は別れるの前提で【契約婚】でしたけどね」
「今は愛情たっぷりじゃない」
語尾にハートマークが数えきれない。
そう感じる彼の妙に甘い口調とじゃれる様な甘噛みが肌に落とされて。
一度欲を発散済みであるから、そんな刺激にも特別熱は高く上がらない。
だから懐いてくる猫を撫でるような感覚で、彼の【明るい髪】をクシャリと掌に感じて。
ああ、こんな感触だったんですね。
不意に過去の自分がそれを確かめたような感覚になって失笑。
もう何度も触れているのに、
今更過去の自分が浮上して、改めての感触に感想を零したんだ。
「ってか、・・・後ろ姿や髪だけの印象?」
そんな言葉に『確かに』と納得し、何故こんな欠如した記憶なのかメモリーの中身を再び覗く。
ああ、
そうか、
「フッ・・・、気がついていたけど、・・・・見てなかったんです」
「・・・はい?」
そう、あの時、初めてあなたの存在を捉えて、
でも肝心な容姿を完全に捉えたのは別れ際の30分。
他の先輩秘書が騒ごうが、
私には興味の対象外だったんだ。