夫婦ですが何か?Ⅱ
勝手に騒いで勝手に散ってほしい。
そんな事を思って、【都合よく】一人の空間に満足し仕事をしていたのに。
徐々に近づいてくる賑やかさに眉根を寄せて、扉が開きかけた時には小さく舌打ち。
平穏の終幕だと、耳障りなお姉様方の浮れた声に息を吐いて、それでも仕事に集中しようと躍起になって。
『えー、でも、仕事の邪魔じゃない?』
不意に入りこんだ低いけれど浮れた声に視線が動いた。
捉えたのは想像していた社長の姿ではなく、身長はあれど学生服に身を包んだ若い男の後ろ姿。
あれは・・・染髪?パーマ?それとも地毛?
だとしたら最近の校則は緩々だと、軽く呆れて半目になって、それでも興味はないと視線をPCに戻していった。
勿論初めて見る姿。
でも、大企業の秘書課フロアまで上がって来れる男だ、自ずとどういう人間であるのかは予測でき。
多分、社長の親戚関係だろう。
親子か叔父か。
まぁ、その辺であろうと自分で答えを打ちだし、納得すれば仕事の継続。
だって、自分が動かずとも他のお姉さま方が充分に接待をしているのだ。
今更私が出しゃばっても無駄で無意味。
仕事仕事、と、この場所と自分の存在する理由に忠実にPCに向かっていたのに。
『水城さん、休憩行って来ていいわよ』
そんな声にキーボードを叩いていた手を止めて、あからさまな邪魔者除去の親切に、込み上げる溜め息を飲みこむと、
「・・・はい、」
怒るところじゃない、
落ち着くのよ千麻。
本来、確かに休憩を取るべき物で、それでも取り掛かっていた仕事をもう少し切りのいい所でそれをしたかったのだ。
でも、暗に邪魔だと言われたそれに、逆らうと後々面倒だと席を立って。
応接スペースで賑わっているお姉さま方を見て見ぬふり。
その中心のソファーにはさっきの男がいるのだろう。
お姉さま方の声に交じって、調子よく響くその声の印象は最悪だ。
軽そうな男。
さっき捉えた後ろ姿からそんな印象を強烈に、更に追加される愛想良しでお調子者。
お姉さま方にはいいおもちゃであるのだろうと、その賑やかさに呆れて扉を開いて。
ああ、でも・・・、
最後に聞いた彼の声に違和感を感じながら、言われるままに気乗りしない休憩時間にその身を逃した。