夫婦ですが何か?Ⅱ
「・・・・・そんなに見つめられたらドキドキするんだけど」
「いえ、見ているだけで見惚れてはいませんから」
己惚れるな。
そんな言葉を心で補足して、決して先刻取り巻いていた彼女達とは違うと示してコーヒーを口に運んだ。
でも唇がカップに触れるより早く、持っていたカップは彼の手に抜き取られ。
どんな新手の嫌がらせだと、無表情で確認の視線を向ける。
そんな私にクスリと笑って、カップを反転させると私に戻してくる男。
「欠けてるから気をつけて」
「・・・・すでに負傷済みです」
「うん。さっきね、綺麗なお姉さん達が話に夢中になりながら物取ろうとしてそのカップを流しに落としちゃってた」
「そんな事だろうと思いましたが、」
「『やだぁ、欠けちゃったぁ。でも、あの子のだし、執着もなさそうだから黙っとく?』的な会議の末、何事もなく棚に戻されてたよ」
「よくご存知ですね。その場に?」
「ううん、たまたま通りかかったらそんな場面で。一通り成行きを見守ってから、今来たように彼女達に声かけた」
無邪気で楽し気な声というのか。
語る内容は安っぽい虐めの場面の様な物なのに、語る彼は他人事のように楽し気で。
いや、他人事だからか。
こうしてカップの詳細を聞いてもさほどの反応もなく、静かにコーヒーを口に運んで。
そんな私にようやく調子を崩したのか、疑問の響きに変わった声音。
「怒ったりしないんだ?」
「・・・・何に対してですか?」
「ん?カップや陰口。今日だけじゃないんでしょう?辛いなぁとか、悲しいとかって気持ちは無いの?」
首を傾げて確かめるように覗き込んできているのは分かる。
記憶にある、癖のある明るい髪が揺れたのを確認し、すぐに彼の疑問へと返答の言葉を返していく。
「それ・・・仕事の役に立ちますか?」
「・・・・はっ?」
「仕事に支障をきたすような嫌がらせや陰口であるなら、私だとて憤り言葉を返すこともあるでしょうが。
こんな微々たる私情の上の物、ある事ない事話されようと、それなりに愛着あるカップを欠けさせられようと、
私が行う業務にはなんら支障はございませんから」
「・・・・・」
そう、私は仕事をしにここに来て、
会社だってそれを目的とし私を雇っているのだ。
無駄な噂話の仲良しごっこに来ているわけじゃない。