夫婦ですが何か?Ⅱ
一気に溢れだした感情のままに手に持っていたダンボールを勢いよく膝で折り曲げ、無残にも廃材と化したそれを静かにその手から離し床に落とした。
静寂。
ピンと張りつめた空気の中多少の快楽を得て。
それでも逃しきれなかった苛立ちをまっすぐな視線で彼に返して。
その姿に笑みがなく、唖然とした現状にようやく彼の作りだした空気を壊したと満足し、これだけは譲れないという言葉を口から響かせた。
「・・・・・・隣人トラブルは面倒で不本意です」
「・・・」
「かといって・・・あなたの【お節介】の助言を制する権利は私は持ち合わせてもおりませんし、ある程度は静かに流して飲み込めると自負しております」
「・・・・はい、」
「だけど・・・・一つだけ、・・・どうしても、言われたら今みたいに冷静でない自分が浮上するかもしれない注意事項を上げれば・・・・
彼を蔑んで愚弄するような言葉を私は絶対に許しません」
絶対に・・・、馬鹿馬鹿しいと思われようがそれだけは許さない。
その意思は自分が向ける視線に強くきつく乗せて響かせ、ぶれることなく対峙する相手の双眸を射抜く。
譲れるもんか。
それは彼を愛するよりも前からの継続。
愛した後は更に強固した感情。
「彼を貶すのも褒めるのも私の特許。
特に・・・よく知りもしない相手が彼を評価し見下すのは絶対に認めません」
独占欲交じりの今も尚続く敬愛。
よく知り得た私だからこそ許される権限であると、己惚れにも近い言葉を迷いなく宣言し息を吐いた。
さすがに沈黙した彼が無言の内に自分が感情ぶつけたダンボールを拾い上げる。
それを小脇に抱えると何事もなかったかのように身を返して扉に手をかけた。
また何か嫌味な引き止めがあるかとも懸念したけれど、耳に入る音は私に優しく、何てことなく自分の絶対のテリトリーである玄関の空気を感じて背後から扉が閉まる音が追って終幕。
受け取ってすぐにローカに放置した宅配便の荷物を視界に捉え。
ああ、そう言えば元々はそれを受け取る為に外に出たのだとようやく記憶が回帰して、その些細な一瞬に付属した出来事の数々といったら・・・。
まだ完全に消化できなかった感情が胸に疼いて、苛立つままに小脇に抱えていたダンボールを足元に叩きつけた。
子供じみた八つ当たりだ。
でも・・・・、
「ムカつく・・・・」
呟いてすぐに負の感情を抑えるよに目蓋を下し、これ以上は漏れださないように片手で覆った。