夫婦ですが何か?Ⅱ
夫婦としての堕落の時間。
でも、お互いが酷く無防備で素直になる時間だとも思う。
巧みなキスで熱を上げられて、計ったように肌に触れてくる。
軽く色めいてくる息遣いも耳に扇情的に入りこんで、こうなってしまえば余計な思考は不必要だと目蓋を閉じた。
そんな瞬間に耳朶を甘噛みした彼が私に聞こえる程度の声音で言葉を弾いて。
「・・・嬉しい、」
「・・・・何がですか?下着が?」
「フッ・・・それもだけど・・・・
俺の為に怒ってくれる千麻ちゃんに、」
「・・・・・当たり前では?・・・あなただって私が貶されたら気分を害するでしょう?」
「そうだけど・・・・、でも、何でそんな怒るような事に?」
愛撫を怠らず、それでも疑問に思っていた事らしく確認を入れてくる内容に、思い出せば腹の立つ姿を浮かべて声に響かせる。
「新崎・・・・追い出せませんかね?天下の大道寺様?」
「ハハッ・・・近所づきあいってそこかぁ・・・。まぁ、さすがに気に入らないってだけで住処は奪えないよね」
「・・・・らしくもなく・・寛大ですね?」
「そう?だって別に何か千麻ちゃんに悪さしたとか実害もないしなぁ・・・。
それに、千麻ちゃんが怒るおかげで俺は誘わなくても美味しい思いするし?」
「・・・・離れろ、」
「ウソウソッ、・・・怒らないで・・・」
宥めるようにそっと胸元に触れた唇。
すぐに悪戯っぽく歯を立てられ一瞬眉根を寄せてしまったけれど。
私に実害がない?
確かに何かをされたわけでない。
でも言葉の攻撃で精神的苦痛が多々なんですが?
そんな不満を胸に抱きつつ、与えられる刺激にぼんやりと思考が鈍っていく。
それでも鈍る思考が描くのはやはり近所づきあいの問題で。
ああ、そういえば・・・・。
「今朝・・・」
「ん?」
「同フロアの彼女とエレベーターの同乗したとか・・・」
「・・・・何で知ってるの?」
あ・・れ?
スッと向けられた視線と声。
その両者に今まで帯びていた熱の皆無に気がつくと自分も冷静な視線で見つめ返してしまった。
特別動揺している目や焦ったような声ではなく、でも冷静な確認。
「・・・・見かけたの?」
「まぁ・・・、私の目ではないですが、」
「・・・誰?・・・・新崎?」
「・・・・・逆隣り・・」
答えた瞬間に呆れなのか失意なのか眉根を寄せた彼が深い溜め息を吐いてその身を離した。