夫婦ですが何か?Ⅱ
一瞬にして空気が変わる。
どこかピンと張りつめたその場に頭では戸惑っても表情には出さず。
だってこういう時の彼程冷静に対処すべきだと身に染みて理解しているから。
虚勢だろうと怯んだ姿を見せて隙を作ってはいけない。
そう感じた瞬間に本当に新崎とスタイルが似ていると気がついてしまう。
でも、今は新崎よりも性質が悪い目の前のこの男に一点集中だ。
明らかに不愉快露わな姿が溜め息をついた後に攻撃的な眼差しを向けて、理不尽な憤りに屈するはずもなくこちらも平然と視線を返した。
「本当・・・・、何で千麻ちゃんはそうやって警戒心薄いかなぁ・・・」
「心外で一方的で我儘な物言いですね」
「心外?我儘?・・・フッ・・・ねぇ・・・俺に敬愛たっぷりな奥様?
そっちこそ、【従順】の度合いが弱すぎたりしないかな?」
「私にも人格がありますので?あなたの都合のいいように動く【従順】なダッチワイフにはなれないかと?」
「っ・・・」
「ああ、すみません。天下の大道寺の奥方としては下品な物言いでしたでしょうか?」
フンと鼻を鳴らして腕を組む。
全く悪びれぬ態度での謝罪に一瞬は言葉を閉ざした彼でもそのグリーンアイに憤りをちらつかせる。
ああ、コレは・・・・久々に戦争だろうか?
そうふとよぎった予感はすぐに確実なものとして彼の言葉から火種となる。
「ねぇ・・・俺言ったよね?隣の男に気をつけてって、」
「確かに・・・【隣】のと言うより【榊】に気をつけろという様な響きでしたが。
何故か両隣りでなく片隣り指定なのには理由も述べずに・・・」
「じゃあ言い直すよ。両隣りの男達に気をつけてくださいませんか?物わかり悪い奥様」
「・・・・・物わかりは悪くても・・・・感がいいのが女です」
決して彼の悪態に取り乱すでもなく冷静に言葉を返すと自分の鼻先を人差し指でトントンと示して彼を見つめる。
何の意図だと探るグリーンに怯むでもなくまっすぐな視線を返して、フッと一瞬だけ負けたように視線を逸らし代わりに言葉を矢として放った。
「策か・・・、それともよっぽど私の物わかりの悪さに意識取られてか・・・」
「・・・何?」
「フッ・・・気がつかないふりして流しても良かったのですが、いやに弁明許さず攻撃的ですので?私もそれ相応に反撃の言葉を向けさせていただけば・・・・・、
『同フロアの彼女とエレベーターに同乗した』
その問いにもあなたは僅かに焦ったのでは?」
一瞬。
本当に瞬く間。
他者であったなら気がつかない程の動揺を見事その目に捉えて目を細める。
悲しいかな・・・・私であるから気がつく彼の動揺。