夫婦ですが何か?Ⅱ
-ーーーNEXT MORNINGーーーー
喧嘩しようが、仲直りに熱く逆上せるような夜を過ごそうが迎える朝は変わらない。
彼より早く起きて朝食の準備をして、コーヒーが出来上がるころに彼がその姿をキッチンから覗かせる。
当たり前の流れの中に今は翠姫の存在も加わって、微々たる時間でも娘と抱擁かわす彼は父親の顔だ。
この表情は・・・姿は・・・翠姫がいなければ見れなかったんだなぁ。
そんな事を思い彼が食事を終えた食器を洗いきって片付け始めていたタイミング。
「じゃあ、行ってくるね、」
そう言って立ち上がった姿に濡れていた手を拭くと近くにあったスーツの上着を手にして彼に近寄った。
それを差し出せば手に持っていた手帳をテーブルに置いて『ありがとう』と言いながら羽織る彼。
「今日は夕飯リクエストありますか?」
「ん~・・・和食系がいいかな」
「大ざっぱですね」
「千麻ちゃんが作るのは外れないし何でもいいよ」
「『何でもいい』が一番主婦泣かせだと言っておきましょう」
そんな他愛のない会話で玄関まで見送りを進めると、クスクス笑いを響かせながら靴を履いた彼が振り返りながら詳細を告げた。
「じゃあ、天ぷら、野菜多めで」
「了解です。天つゆですか?塩ですか?」
「天つゆ気分」
「では今夜はそれで、」
家族会議は終わりだと言葉を締めると、満足そうに微笑んだ彼が『いってきます』と声を響かせ外に出る。
その姿に軽く片手をあげて見送りとして、扉が閉まるとその身を反した。
天ぷらか・・・何の野菜にしようか。
そんな思考を働かせながら翠姫の待つリビングの入り口をくぐってすぐにキッチンに入り込む。
途中だった食器を片付けようとその場に踏み込んだのに、オープンキッチンの向こう側に捉えた物に思考が一瞬で掻き消された。
「ドジ・・・」
もうすでに存在しない姿を詰って歩き捉えた物を手に取ると足早に玄関に向かった。
上着を着る際に置き忘れたであろう手帳。
まだ運が良ければエレベーターホールにいるだろうと駆け出して、でも朝と言う時間も配慮してなるべく静かに小走りでその姿を追って。
運が良かった。
捉えた後ろ姿にそう思って、でも声をかけることなく不動になって気配を消した。