夫婦ですが何か?Ⅱ
そしてそれすらも過ぎ去った過去の物。
今更どうにかなる物でもないことに騒ぎ立ててどうするというのか。
「そっか・・・・・、そう・・か・・・・」
どこか安堵したように迎えた場面に脱力したらしい彼が、片手で額を押さえながらも口の端を僅かに上げて。
ゆっくり息を吐きだすとその手を外して私に困ったような微笑みを向けた。
「そっか・・・・よかったぁぁぁ・・・・。俺・・・さすがに千麻ちゃんを傷つけるんじゃないかって不安で・・・・
でも・・・良かったぁ・・・・・」
ああ、心底安堵したように抜けた笑顔浮かべて。
だから何回も言ってるじゃないですか。
今更過去の女性関係に傷ついたりしないって。
例えそれが、
「馬鹿ですね・・・・」
拒まれても私を想ってくれていた期間にあった出来事でも、
「気にしないって言っているのに、」
私を揺るぎなく想ってくれていたと記憶していた時間・・・でも?
「・っ・・・・千麻・・・ちゃん?」
「・・・・・あ・・れ?」
最初に彼の驚愕に驚いて。
直後に瞬きした瞬間にパタタッと零れ落ちた自分の涙に驚いた。
本当に涙なのか自分の指先で頬に触れて確認し、呆然と自分の感情と向き合うように放心した。
理屈を述べて、自分でも解釈すれば納得する。
彼は特別裏切ったわけでもない。
離婚も成立し私との関係は切れていた時間。
私だって恭司と生活を共にしていたのだ。
責めるべき事じゃない。
理屈的に解釈するなら・・・、
でも・・・・・、感情的には?
あっ・・・・ショック・・・・・。
「千麻ちゃん?」
結論が出たのと彼の声が響いたのはほぼ同時だったと思う。
パッと意識を彼に移して、困惑して覗き込んでいる彼を見つめ返した。
「あの・・・・大丈夫?」
大丈夫か?
その問いに間抜けにも口を軽く開いたままパチパチと数回瞬きしてから視線を逸らす。
そして彼の背後に目的の物を捉えると困惑で染まる彼を無視して手を伸ばした。
カチャリと音を響かせ握ったのはペン立てにあった裁ち鋏で、それを確認した彼が瞬時にビクッと反応したのを確認する。