夫婦ですが何か?Ⅱ
私に刺されるとでも思ったのか。
それも一瞬よぎったけれどそんな自分の人生の経歴に汚点なんか残せるか。
私はいつだって精神的にくるであろう行動で返す女なんだ。
その精神のままに。
「・・っーーーーー」
目の前の光景に彼が声にならない絶叫をした気がする。
まさにそんな驚愕の表情で固まる彼がみるみる青ざめて、それに追い打ちをかけるように握っていた物を彼の目の前ではらりと落とす。
鋏をいれた物を・・・。
「・・・・・・おあいこで・・」
「っ・・・はっ?・・・はぁっ?って・・・だって・・・、
千麻ちゃん!?髪ぃーーー!!!!」
たどたどしい驚きの叫びと一緒に無残に短くなった髪の一部分を指さした彼に、フンと鼻を鳴らすと鋏を置いた。
「・・・・あなたの私への想いの時間には理由はどうあれ純粋とは言い切れないものがあった。・・・・つまり、傷物をそうじゃないと私に嘘をついていたわけです」
「っ・・・いや、その・・・いや・・・そうなんだけど・・・」
「・・・・・なら・・・私が別れていても断ち切れず抱いていた感情がこの髪の長さ。それを同じように傷物にしたまでの事です」
「ちょっと・・ちょっと待って・・・・あの・・いや、聞かなくても・・・認めたくなくても気がついてるんだけど・・・・
やっぱり・・・・怒ってる?」
分かっているなら聞くなよ。
そんな睨みを瞬時に向けたのに、その目からポロポロと涙が溢れたから様にならず。
でも拭うでもなく自分の鞄があるところに歩きだすと、怯みながらも彼の姿がひよこのように追って来る。
「ね・・あの・・・千麻ちゃん?」
「・・・・ご心配なく。見苦しいこの髪は迅速に美容室に予約入れて対処いたしますから」
「ち、ちがっ・・・そうじゃなくて・・・その・・・」
「出勤時間ですよ?さっさと夫としての・・・雄として家族を養う本能働かせて稼いできてはいかがでしょうか?」
「千麻ちゃーーーー」
「・・・煩っ・・・・」
「っ・・・・・」
眉根を寄せてすべてをシャットダウンするように目蓋を下し、耳触りだと声を響かせると見事押し黙った彼が息を飲んだ。
大人の声が鳴りやめば、響くのはおもちゃで遊ぶ翠姫の声。
この響きだけは常に平和だと感じ、同時に脳裏に浮かんだ突発的結論。