夫婦ですが何か?Ⅱ
Side 茜
半ば放心状態でエレベーターの下降に身を任す。
そして印象強烈な彼女の涙と断髪式に深い深い溜め息を漏らした。
傷つくだろうと予想はしていた。
怒る事も。
だからもし知られても、怒られ詰られるのはある程度覚悟していたけれどさ・・・・。
そんな予想上回るのが千麻ちゃんでしたね。
思い出すだけで変な動悸が走る彼女の悲哀のままの行為。
それだけでどれだけショックで、どれだけ強く俺に報復しようとしていたかが伺える。
だってあの髪の長さは・・・・距離を置いても俺を思ってくれていた証でもあったんだから。
俺が悪戯に指摘して、『俺の為?』なんて茶化しても、否定をしつつそれでも切らずに伸ばしてくれていた。
それが嬉しくて・・・。
あの髪に指先絡める度に簡単に愛情口にしない彼女のそれを感じて浸っていたのに。
「・・・・・・千麻ちゃん・・さすがですよ」
乾いた笑いを可笑しくもないのに零し、彼女の的確で絶大な報復を回想して視線を落とした。
やっべ・・・・・、俺結構本気でショック受けてるや・・・。
よっぽどでなければ見ることのない彼女の涙と無残に短くなった髪の長さ。
そして・・・、
「家庭内別居って・・・・【別居】じゃないじゃん?」
すでに矛盾している彼女の行動は逆に嫌がらせにしか感じない。
怒って距離を置こうとしているのに基盤の生活は今まで通りってことだろ?
なのに・・・性的な夫婦関係はNG・・ですか・・・。
それは生殺しってものじゃあないでしょうか?千麻さん?
つまりつまり、性的関係無しで表面ばかりは今まで通りに夫婦でパパとママで・・・・・ごっこ遊び・・・。
【夫婦ごっこ】・・・・。
「デジャブ・・・・」
一瞬にして最初の結婚当初を思い出して、彼女の心を掴むまでのもどかしく切ない日々に畏怖して落胆した。
『出直し』
その言葉がいやに頭に響いて泣きたくなる。
何これ・・・人生ゲームでうっかり1出して、それにもへこんだのに進んだマスが【ふりだし】だった気分。
でもあらがう事不可能な現実に悶絶して意味もなくエレベーターの壁を軽くノックするように小突いていれば。
ふわりと入り込む風に髪が揺れて、それに意識走ればエレベーターが不動である事に気がついた。