夫婦ですが何か?Ⅱ
「・・・・・あ、」
分厚い扉が開いて捉えた姿に力なく反応する。
それこそこんな騒ぎの直前まで会話していた姿。
エレベーターの向かいの壁に寄りかかって何かを待っていた彼女の姿が俺を捉えて小さく息を吐いた。
【何か】じゃなく・・・【誰か】か。
そして・・・俺だよな。
「・・・・酷い顔ね」
「打ちのめされてきました」
「の、割に綺麗な顔して・・・。もっとボロボロな姿で登場かと・・・」
「いや、精神的には滅多打ちくらって変形しまくりのヒビだらけなハートですけど?」
言いながら胸を摩って彼女の前によろりと進む。
珍しく無表情にも同情的な物を感じる彼女の表情。
さすがに自分も関与の事態だからだろうか、何の頷きなのか数回うんうんと頭を揺らすと俺を見つめて息を吐いた。
「で?・・・また離婚?」
「不吉な事言わないで・・・、ってかそれ超トラウマで聞いただけで胃がキリキリする」
「なんだ・・・お許しでたの?面白くない」
「許される筈ないじゃん!?むしろ絶賛お怒り中で【家庭内別居】とか矛盾した生殺しの刑を告げられたけど!?」
「・・・・・・茜君にはキツイ刑ね。大っ好きだものね・・・無防備な奥さんの事」
「ううっ・・・1分毎に『愛してる』って言いたいくらい大好き」
「茜君・・・それはさすがにウザいわよ」
「だからしてないし・・・・」
でも、そのくらい千麻ちゃんに惚れ込んでるって言いたいんだよ。
俺の消沈した姿に『あ~あ』と言うように表情を崩した彼女が慰めるように俺の腕をポンポンと軽く叩いて。
ゆっくり視線を移せば苦笑いで見上げてくる。
「愛情って・・・目に見えてても分かりにくい物だから」
「知ってる・・・」
「・・・・・そもそも、ちゃんと弁明したの?私との関係」
「・・・・・いや、それを語ると他にも色々と問題も起きてお怒りも増しそうな・・・」
「でも愛情面では解決しそうなものを」
「・・・・・しないでしょ?・・・・莉羽ちゃんなら分かりそうなものを・・・・」
「・・・・・・そうね」
一瞬考え込んだ彼女が納得して自分の言葉に否定を返すと困ったように口の端を上げる。
『可愛い』とか不謹慎にも思った感情は仕舞い込んで、今はとにかくやや複雑になった現状に頭を抱えた。