夫婦ですが何か?Ⅱ
Side 千麻
窓の外を眺めていい天気だとぼんやり思う。
目の前に煌々とPCの画面が表示されているのに、どうもやる気の起きない感情のままテーブルに突っ伏して。
そんな私の足元で翠姫が遊んでいるのを時々確認する。
集中力の欠如だ。
原因は明確で未だショックなのだろう、彼が関係した事実に。
いや・・・関係したというよりもあの【時期】にという事がショックなんだ。
知っていた事実と異なる、信じて歓喜していた心に水を差されたような。
そして虚しくも軽くなった髪の重さ。
肩よりやや上で揺れる長さ。
自分でしたとはいえ喪失感が半端ない。
かといって一瞬で伸びそろうはずもなく、フゥッと深く息を吐きだすと体を起こした。
そんなタイミングを見計らったようになったチャイムにゆっくり立ち上がるとインターフォンで応答する。
「・・・・はい、」
『隣の榊です・・・・回覧板なんですけど』
「・・・回覧板?」
別に回覧板が回ってきた事に疑問を感じたわけでなく、それを届けに来たことに多少の違和感。
だって、いつもはドアノブにそれをかける方法で巡回していた筈。
なのに今日に至っては手渡しを要求される意図は何だろう?と首を傾げていると。
その様子を確認しているかのように理由が機械越しに告げられた。
『すみません。回覧板以外で渡したいものがあって』
「・・・・・・はぁ、」
はてさて・・・困ってしまう場面だ。
彼と複雑に揉めていようが約束した事は有効だと思う。
それにあの約束は揉める前になされた物。
出来うる限り警戒し接触を断つと宣言したのに、こうしてすぐに対面するのはありだろうか?
そうは思うものの逃げ道ではないけれど『出来うる限り』と前打ったのが良かった。
【回覧板】
これは近所づきあいとして避けられない接触だろうと判断し、それでも【警戒】というポイントだけは頭に復唱しながら玄関のカギを開けた。
その瞬間に勢いよく入り込んでくる姿!
なんて、ドラマチックな展開が起こる筈もなく、扉の前でスッと立つ姿が軽く頭を下げて回覧板を差し出してきた。
でも一瞬私を捉えた彼がその目を驚きに開いたのを見逃さない。
何だろう?と思いながら差し出された回覧板を受け取って頭を下げた。