夫婦ですが何か?Ⅱ
「・・・・失恋でもしましたか?」
「はっ?・・・・・・ああ、」
不意に発せられた言葉に一瞬は疑問に染まり、でもすぐに揺れた髪で意味を悟って納得していく。
驚いた表情はこれに対してか・・・。
「・・・・気分転換です」
「・・・・てっきり・・・ご主人と揉めたのかと・・・」
「・・・・・・」
予測にしてははっきりと明確に告げてくる内容に探りの眼差しを向けると、決して動じない姿が私を見下ろしクスリと笑う。
この前からそうだ。
この人は適当に物を言って惑わしているんじゃない、意図的にそれを告げて私に何かを仕掛けているような。
これが・・・彼の言う不安?
確かに警戒すべき対象なのかもしれない。
でもとうとう来訪してまでのそれなら黙って探り返すだけの私じゃありませんけどね。
「不躾で申し訳ありませんが・・・」
「ハイ、」
「もしや主人との間に何か確執的な物がおありでしょうか?」
これはほぼ確信に似た予測での確認。
あそこまで彼が他人に警戒を置くという事は、身勝手な想像からの警戒じゃなく何か理由あってのそれの筈。
そして彼の懸念のままに徐々に接触回数もその距離も縮めてくる隣人。
だからきっと何かあった筈。
そしてそれは・・・警戒を置く彼が恨みを買っているような事なのだろう。
私の問いに浮かべていた笑みを静かに消したけれど、決して驚いたものではない表情が私と対峙する。
それでも多少返答に迷っているのか視線がゆっくり逸れ目に見えての思案を示すような顎に添えられた手。
「・・・・・ご主人が何か?」
「いえ・・・私の一方的予測です」
「・・・・・まぁ・・・・確執と・・・言うんでしょうかね・・・・」
何ともはっきりしない返答を。
特別彼に対する憤りも見せなければ一応何かあったらしいそれも確執だと断定しない姿に拍子抜けしてしまう。
どういう事なのか。
彼にとっては報復を恐れるほどの内容なのに、この人にしてみればたいした事のない記憶なのか。
疑問で視線泳がせ彼と榊の温度差に思考巡らせていれば、
「ああ、でも・・・・」
思い出したように柔らかく響いた声。
でも、一呼吸置いた直後には声音に合わない力で中に押し込まれ、驚くより早く強引に壁に縫い付けられた。
ガチャリと虚しく扉が閉まる。