夫婦ですが何か?Ⅱ



薄暗くなった自宅の玄関ポーチで何故か隣人の男に壁ドンされている日中。


そして響く舌打ち。


彼のではなく・・・私の。


それを向けた対象も彼にではなく自分自身にだ。


しかも、こんな強引で犯罪めいた侵入に驚きも畏怖も微々たる物でしかない。


さして驚愕もなくただ怠った自分の警戒に舌打ち響かせれば、さすがに予想外だったのか疑問顔で覗き込んでくる姿。



「・・・・もう少し・・・驚くとか恐がって貰えないと非常にやり損なんですけど?」


「ご期待に添えずすみません。悲しいかなこういう場面の遭遇率高い生活を送ってまいりましたので感覚が麻痺しているのかと」


「・・・・このままだと・・・襲われますよ?俺に。

抵抗や叫びもなしですか?」


「むしろ実害残った方が訴えは通りやすいですし・・・、もうすでに住居侵入で立派な犯罪です」



全く動じずに淡々と罪状を告げれば、驚愕の表情の後にフッと噴き出し笑いだす彼。


でも確かに現実問題自分に不利である状況は変わらない。


実害あれば。なんて言ってはみたけれど私だって好意のない相手に自由に好き勝手されるなんて嫌悪の対象だ。


なんだか相手が笑って隙だらけのこの間に急所に一発かましてしまおうか?


正当防衛だし。


そんな事を思っても実際はせず、そんな間に笑いを治めた彼がゆっくり息を吐いてから私の双眸を覗き込んで微笑む。



「・・・・・【無防備】だけど・・・・馬鹿じゃない。冷静で感が良くて・・・・・、あいつの一番の宝物・・・」


「だから・・・壊したいとでも?だとしたら選抜は正解です。間違いなく彼が傷つく事お墨付きですよ」


「・・・・・あなたに恐いものは?」


「・・・・・彼に見放されることでしょうか」


「・・・・・」


「だから・・・・私に恐い事なんてありません」



お分かり?


そんな風にニッと口の端をあげて見せ勝利。


さらりと答えた弱みは実現しないありえない事だと余裕に微笑み、だからこそこの状況にも屈しないと示してみせる。


まぁ・・・彼は傷つくのだろうけれど。


だからこそ本気で迫られるような場面になれば必死には抵抗するだろうけど・・・。


今現在のこの人からはその本気は感じられない。


私が楽天的?


こうして家の中に押し入られているのに。


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