夫婦ですが何か?Ⅱ
それにしても・・・何があったのだろう?
彼とこの人の間に。
そんな疑問で怯むでもなく彼の長い前髪越しに視線を絡める。
そして客観的に見ればこの人もやはり整った顔なのだ。
「・・・・・注告と警告・・・」
「はい?」
疑問の声を返せばすぐに頬に当てられる何か。
紙の様な質感に視線を走らせれば何やら封筒の様で、そっと指先で触れれば彼の指先はそれを手放す。
分かりやすいように自分の視界に移動させて、様々な角度から確認したけれど宛名もなく。
一体何なのか確かめるように顔を上げれば、
「・・・・・・これでも・・・恐くないのかな?」
意味ありげに言葉を落とした彼がクスリと笑うとその身を離した。
そして何食わぬ顔で玄関扉に手をかけ外気を取り込んだ。
あっ・・・・。
一瞬心が動揺した。
扉を開けた瞬間に、ちょうど我が家の前を通り過ぎる最中だったらしい姿がこちらを捉えて驚愕に染まった。
化粧っ気のないこのフロアの私以外の女。
彼と過去に関係した女。
でも彼女が捉えてその視線集中させていたのは私ではなくどうやら遮るように立つ隣人の男で。
しばらくしてから『信じられない』と言いたげに私を見つめてくるから焦ってしまった。
い、いやいやいや・・・。
別に昼ドラ的なやましい関係繰り広げてませんからね!?
と、叫んで否定したいのは今見られた現状が、どうやら仲睦まじそうな我が夫に語弊ありきで伝わりそうだと判断したから。
浮気を疑って、逆に疑われるような場面を見られたんじゃ余計話が拗れそうだ。
咄嗟に回覧板を胸に『こんにちは』とアピールをすれば、彼女も怪訝な表情ながら『こんにちは』と歩き去る。
私の前に立つ男を睨むように確認してから。
はてさて・・・・誤解・・・されなかっただろうか?
そんな変な動悸を必死で治めている間に、不動だった彼が小さく噴き出すのに意識を移す。
背後からの姿だから何を思ってかは知らないけれど、一笑すると私を振り返る事なく姿を消して、余韻のように玄関扉の音が響いた。
結局・・・・何の訪問だったのか。
私に特別危害を加えるでもなく立ち去った姿に首を捻りつつも、手の中に残された封筒に疑問を移す。
これが用事だったのだろうか?
特別宛名のない郵便物は切手すら貼っていないのだ。