夫婦ですが何か?Ⅱ
丁度浴室から出た真正面の壁に寄りかかって立っていた姿は確実に私を待ってのスタイルだろう。
それを理解して嫌味を飛ばしたのだけども。
でも自らその用事を確認する気もないと用意していたバスタオルに手を伸ばして体に付着している水分を拭き取って。
適当に髪の毛を拭いた後に根元から毛先まで絞るようにタオルに水分を移していく。
その間無言で私を見つめていた彼。
一体何をしに来たのかと、一瞬だけ視線を走らせすぐに外して髪に手櫛を通す。
用がないなら立ち去ってほしい。
今は・・・本当に苛立っているから。
それを煽るような感触短い髪に眉根を寄せると。
スッと真後ろから髪に触れてくる指先。
瞬時に『触るな』的に睨みをきかせて振り返ったのに、絡んだグリーンアイに気圧され言葉は飲み込んだ。
『怒らないで』
そんな、叱られている子供の様な必死の眼差し。
甘いのでしょうか?
見事鵜呑みに沈黙し接触を許可した私は。
彼の指先が確かめるように私の湿った髪で遊び、様々な角度から見慣れない姿を確認している様にも感じる。
黙ってそれに従って、髪から滴った水滴が背中に落ちて肌を滑る。
季節も初夏。
寒くはないけれど裸で留まる時間は可笑しなものだ。
「っーーー」
「迷ってたんだけど・・・」
さすがに声を響かせようかとした瞬間が彼のそれとタイミングが重なって、踏みとどまった私とは逆にその言葉を続けた彼。
でも、一瞬の間にお互いにお互いの言葉を待って沈黙した間。
それでも先に言葉として発したのは彼が先だと、無言でその発言権を譲渡すると。
ゆっくり息を吐いた彼が後ろ手で何か取り出すと私の左のこめかみから触れて何かを静かに髪に留めた。
キュッと一定の位置に留められた髪。
その詳細探るように指先で触れ彼の双眸に意図を探る。
捉えたのは少し戸惑い迷う微笑みで、私の反応にもまだ自信を持てていないようにも見える。
「・・・・・これは?」
「・・・・えと・・・、お土産・・・です。でも・・・」
「【でも】?」
「あっ・・・いや、でも・・あの、とりあえず聞いて・・・」
さっきも指摘した接続詞を強調して確認をいれれば、焦りながらも詳細を聞いてほしいと言葉を続ける姿勢。
それを今は汲んで自分の言葉を飲み込むと、どうぞとばかりに掌を彼に示して許した。