まちこのerotica
でも、私は、立ち上がらなければならなかった。家の中にいては、哀しみに取り込まれるばかり。
再就職先を見つける為に動き出した。
それは、時給910円の介護補助の仕事だった。
車で15分ほどの高台に建つ『えるみたーじゅ』という名前の三階建てのリゾートホテルと間違えそうなオレンジ色の洒落た洋風の建物。
そこは、超が付く高級老人福祉施設だ。
入所保証金は一千万円をくだらない、という。
「うわー…すごい…」
富裕層向けのその施設に足を踏み入れた私は、思わず感嘆の吐息をついた。
明るい色彩の絵が飾られ、観葉植物があちこちに置かれた広いエントランス。
ちょうどよくクッションが効いた雲と空をモチーフにしたカーペットを踏み、中にはいると大きな窓の向こうには、たくさんの花が咲く植物園のような庭が見えた。
予想以上の豊さに、ため息が出る。
優雅な老後。
こんなところで余生を送れたら、どんなにステキだろう…
夫を失った私が、こんなところで暮らせるが訳がないな……
そう思うと無性に哀しくなった。
人事担当者二人が現れ、ふかふかのソファがある応接室で面接を受けた。
中年の男達は若い未亡人の私をとても憐れんだ。