まちこのerotica
お互いに若かった日、高波さんとの奇妙かつ平和な三角関係などなかったかのように夫は、私を独占したがった。
ドラマに出ている俳優さんを私が
「格好いい」と何気なく言ったくらいで「俺よりそいつを選ぶんだ」とか拗ねてしまうくらいだったから、男の多い仕事場で働くことを許してくれなかった。
本能に溺れたあの日々は、本当に何だったんだろう…と思い返す。
ハセの方は、私を失いたくない一心だったのだと思う。
でも、あの頃、高波さんかハセを選べと言われたら、私は高波さんを取ったかもしれない。
恋とは違う。
思慕。
真千子はフランス人形みたいだと言って称賛してくれた。
初めて私を認めてくれた人。
自分に自信を持つために、高波さんは大切な存在だった。
小娘だった私は、高波さんの妻の気持ちなど少しも考えていなかった。
今が楽しければいい、と考えていた。傲慢だった。
今となっては申し訳なかったな、と思ってる。
「……はい。お疲れ様でした!
施設見学は一通り済みました。
長谷部さん、どうぞ、こちらでお茶でも飲んで、一休みしてからお帰り下さいね」
ヤマダの声に私はハッと我に返る。
なぜ高波さんのことなど、今更思い出すのだろう。