まちこのerotica
お待たせしました、と
紅茶とサンドウィッチが運ばれてきて、視線を前に戻した時。
はっ……
ふいに何かを感じた。
視界のはじに白いものが入り、私は出入り口に目をやった。
そこには、白い杖をついた銀髪の老人が立っていた。
洒落た赤系の柄物のシャツに、オフホワイトのパンツを合わせて。
私以外には、客のいない静かな食堂。
彼は杖を使い、ゆっくりとこちらに進んでくる。
その背格好に見覚えがあった。
「高波さん!」
思わず、私は叫んでしまい、慌てて両手で口を覆った。
「…真千子か?」
高波さんは歩きながら首を傾け、やまびこを聞くような顔をした。
黒目は灰色に近く、白杖が手放せないのが分かった。
23年ぶりの再会。
薄かった頭髪や眉はすべて真っ白くなっていたけれど、顔の色つやはよく素敵なロマンスグレーになっていた。
高波さんは、ソファ席に座る私の横に腰を下ろした。
「ハハ。驚いたろ?糖尿病だよ。
それで目をやられちまった。今から8年前の70歳の時だ。おかしいと思ってたんだが、医者嫌いで延ばし延ばしにしてるうちに手遅れになっちまった。
昔と違って、糖尿患者で失明するなんて滅多にいねえのに」
高波老人は脚を組み、コーヒーを一口啜ったあと、語り始めた。