まちこのerotica
外灯の明るさから逃れた位置。

それは鉄屑ではなく、自転車だとわかる。フェンスに立て掛けるようにして、5,6台が重なりあっていた。


あきらかに誰かが故意にやったものだ。

嫌な予感がした。

暗くてよくわからないので、近づいてみると……


チッ…

思わず、舌打ちが出た。


俺が愛用する黒いマウンテンバイクがその中にあった。


何者かが鍵のかかったままの俺のマウンテンバイクをあの空き地に運んだのは、確かだ。
他の数台の違法駐輪の自転車と共に。


両隣をママチャリに挟まれ、ペダルがタイヤのスポイラーに入り込んだり、引っ掛かったりして、外に引き出すのにとても難儀した。


家に帰り着くなり、「おかえり」と出迎えた妻に俺は文句を並べたてた。

言ったってしょうがないのだけれど、言わずにはいられなかった。


「違法駐輪だからって、何の断りもなく人の自転車を動かすなんて、嫌がらせだ、ふざけんじゃねえ。犯罪じゃねえか。なあ?」

俺がいうのに、妻は眉を潜めた。


「……あなたって小さなことにいつまでも根に持つのよね…今だに、幸久の名前、本当は『ごろう』にしたかったんだとか私とおばあちゃんにグチグチ言うものね…」


妻は低い声でそう言いながら、俺の前にクリームシチューの皿を置いた。




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