まちこのerotica
あれは17年前。
妻(当時・彼女)とひと月ぶりに逢う約束の日。


重大な仕事上のトラブルに巻き込まれ、連絡もできずに(携帯のバッテリーも切れてしまった)俺は、結局、4時間も遅れて待ち合わせの喫茶店へ行った。


俺達が社会人になってから使うようになった昔ながらの喫茶店『ベル』
その店を見つけたのは、妻だ。

アメリカン350円。
スペシャルブレンド450円。

定時で終わる事務の仕事をしている妻は、長居しても嫌な顔をされないこの店がお気に入りだった。


11時を少し回っていた。
もう絶対にいるわけがないが、一応、行ってみよう…と思いながら、店に向かう。

いくら人の良い妻でも、腹を立てて帰ってしまっただろう。
今頃はもう風呂に入り、寝る支度をしているはずだ。


そんなことを考えながら、『ベル』に行くと……


なんと、妻はいた。
もう、店はとっくに閉店していたから、妻は店の出入り口のドアの前に立っていた。


『事故にでも遭ったんじゃないかって心配しちゃった。良かった。来てくれて』


真っ赤な目と頬をした妻は、そういって笑顔を見せたのだった。


どこまでも寛大な愛に感動した俺は彼女との結婚を決意した。

わがままな俺には、この女しかいない、と。


………が、
結婚するとすぐに、妻はころりと変わった。




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