まちこのerotica
いきなり、白いものが目前を掠め俺は驚く。
誰かが俺の鼻先2,3センチ前を横切ったのだ。
俺はとっさに掲げていたスマホを引っ込めた。
自分の【美学】について考え出すと結構長い時間放心状態になってしまうのが俺の悪い癖だ。
はたからみたら、客か上司に叱られて落ち込んでいる間抜けな野郎にしか見えないだろう。
……しかし、なんであの野郎、人の目の前スレスレを歩く必要があるんだ。
わざとらしく。
我関せずで、去って行く全身グレー上下の、後ろ姿は70代以上の爺さんだった。
俺はチッ…と舌打ちした。
もしかして、このベンチはあの爺さんの指定席なのか。
そんなこと知るか。
走っていって、頭を叩いてやりたい衝動にかられる。
が、もちろんしない。
俺は常識的で善良なサラリーマンだ。
税金を1円の漏れもなくしっかり納める
45歳の働き盛りの男だ。
親父が生きていたら、あの爺さんくらいだろう…
俺は久々に亡き父親を思い出す。
建具職人だった親父は俺が小学5年の時、突然帰らぬ人となった。
葬式の時、親戚のヒソヒソ話で死んだのは、愛人とヤってる最中だと知った。
アホなやつだ。
あいつのおかげで、残された母と俺がどんなに恥ずかしかったか……