まちこのerotica
保身の本能が働いたんだと思う。長谷部の機嫌を損ねて、会社にこの関係をバラされたら大変だ。悲劇のヒロインを演じるしかなかった。


「長谷部さんは、本当に人を好きになったことないでしょ?私だって死ぬほど苦しいの、高波さんだって、結局は私のこと捨てて、奥さんの元に帰っていくって、分かっているもの!」


『…』


長谷部が無言になった。


『…じゃさ。俺ともしよう』


「えっ?」


『俺さ、吉本のこと前から気になってた。
おとなしいけど、スケベそうで、いいなって。俺、そういうギャップのある女が好みだから。
ぶっちゃけ、あの手紙読んだらムラムラして1人でしちゃったよ。それから君のこと忘れられなくて。

俺と付き合ってくれたら、あの手紙、燃やすよ。資料保管室のことも黙っててあげる』


…長谷部は、外見通りのケダモノだった。


「考えさせて…」


私はそう言うのが精一杯だった。






今日は、ふた月に一度の定例会議が本社であるこの社屋で開かれた。
各営業所から、部長、課長、所長クラスが集まり、関東第二営業所の所長である高波さんも来た。

高波さんが本社に来るのは、飛ばされて以来、ひと月ぶりだ。


< 45 / 109 >

この作品をシェア

pagetop