まちこのerotica
不倫とブーだけど、モテるのは悪い気分じゃなかった。

まともな恋になんか縁はない。私らしいといえば私らしい。


ーーいつかは幸せな結婚がしたいけれど。





火曜の午後7時。

仕事を終えた私は、1時間ほど電車に揺られ、ヒノデ建託株式会社関東第二営業所営業所の最寄り駅に辿り着いた。


半年ほど前から続いている年の離れた男との週一回の逢瀬。
海が近いから、電車から降りた途端に潮の香りを吸い込むことになる。

その香りは変身の合図。
私は、普段の地味子の自分を捨てる。


その日、高波さんは私を鰻屋さんに連れて行ってくれた。
エッチの前の腹ごしらえ。

鰻は高波さんの大好物のひとつだ。

この店には何度か来てる。
私たちの他には客はいない。
店のおばさん従業員も、愛想がなく、私達に無関心。

高波さんは、いつもひと気の少ない穴場の店を選んだ。それはお互いの為だって分かってる。


「鰻、美味しい!」


こじんまりとした店内で、私ははしゃいでみせる。


「国産だからね」

高波さんは満足そうに頷く。


「やんやん、美味しすぎっ!」


私はジタバタ地団駄を踏むマネをした。
彼の前では、子供みたいに振る舞う。

食べ終えたら、この近くのパーキングに停めてある社名入りの営業車に乗って、営業所に戻る。

そして、秘密のあの部屋で高波さんと水曜日の夕方まで一緒に過ごすのだ。


服を脱いだ時だけは、対等な大人の男と女になれるの。


いつも優しい高波さんだけど、この頃、さらに優しい。


< 62 / 109 >

この作品をシェア

pagetop