まちこのerotica
「なぜ抑えたかって?
高校時代にボクシングを習っていたことがある俺が、そんなことをしたら、そいつは死んでしまうかもしれないじゃないか?スポーツ精神にのっとって、拳を握りしめグッと我慢したよ。

『こんなことすんじゃねえ!
今度やったら、殺すぞ』ってアイスピック取り上げたら、爺さん、慌てて逃げて行ったよ」


「そうなんだあ、ボクシングなんて、かっこいい〜」


煙草を指の間に挟み、私は無邪気に感心してみせたけど、心のなかでは、ちょっとだけ馬鹿していた。


ボクシングのくだり、嘘クセ…


高波さんて、昔は色々やっていたのに、今はすっかり普通のおじさんになっちゃったんだね…可哀想…

それに諸悪の根源は、違法駐輪してる奴高波さんじゃん…


口には出せないけど、心の中で毒づいた。
それは、間違いなくハセの影響だ。


ハセは私と寝るたびに、腕枕をしながら、高波さんの悪いところを山ほど聞かせた。
最初は愛する彼の悪口を言われて、ムッとして抗議した。だけどハセは正直に『俺、高波に嫉妬しているんだよ』と、叱られたワンちゃんみたいに目を瞬かせた。

カ、カワイイ…!


私は不覚にも、母性本能をくすぐられてしまった。

私にも、そんなものがあったんだ。
おじさんと付き合っている私は、いつの間にか精神年齢が高くなってきてるのかもしれない。





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