私の愛した未来
強い海風が私に吹きかかる。
帰らなくちゃ。
そう思って立ち上がる。
「おい、どこ行くんだよ。」
私の背後に聞きなれた声がする。
未来だ…。
「春子…」
そう名前を呼ばれたから
振り返ろうとした瞬間。
ギュッ…
後ろから未来に抱きしめられた。
「み、未来…?」
驚いて出た自分の声は ありえないくらい掠れていた。
「勝手にどっか行くな。電話くらいでろ。心配かけんじゃねぇ!」
強く、そして本当に心配してくれたのが伝わる声が耳元で響く。
そのまま抱きしめる腕は強まる。
「…みら…ぃ…」
「…悪かった…。」
「えっ??」
今、未来が謝った?
迷惑かけたのは私なのに…
「み、みらっ…」
「俺が、お前に仕事を見せたくなかったわけじゃない。信じてくれ…」
私の声を遮って
発せられた言葉は思いがけないものだった。
「その…仕事、…見たいなら見に来てもいい…から…。」
私の体をクルリと回して
見せたのは、困ったような 考えるような表情の未来。
「…行っても…いいの?」
その不安げな未来にゆっくりと問いかける。
「…うん…来て…いいよ。」
「…無理してない?」
「…っ、してねぇよ。」
「…。」
「…、帰るぞ。」
そう言って私の前を歩き出す未来。
怒ってる…よね?
「あの…。」
「何。」
う…
怒ってる…。
「あの…ご、ごめん…なさい…」
思ったような声の大きさが出るはずもなく、掠れた声がボソッとこもる。
「…この、方向音痴が!1人でホテルまで帰れるとでも思ったか?!」
「い、いや…」
やっぱ怒ってる…。
さっきは謝ってくれたのに…。
「ったく…離れんじゃねぇぞ。」
「えっ?」
そう言うと
未来は優しく私の手をとって横へ引き連れる。
「あ、あの…みら、未来?!?」
「なに?」
なに?
じゃないんだけど!!
「お、怒ってる?」
「いや、別に。心配かけんじゃねーよって思ってるだけ。」
「そ、それ怒ってるって言うよね?」
「そーか?」
怒ってるんだかなんなのか分かんない表情。
繋がれたままの手。
恥ずかしくってトボトボ歩いていると
「さっさと歩け!」
って怒られながらホテルまで帰った。