私の愛した未来


ホームルームが終わり私は里奈に泣きつく。


「どおーーしよぉーー。」


「こんな日に未来くんがいないなんてね。災難だね、春子は。」


「他人事だと思ってぇ…」


「思ってないって、本当にお気の毒です(笑)」


里奈が楽しそうに笑う。

「ま、なるようになるでしょ!大丈夫だよ、林くんも別に春子を困らせたい訳じゃないと思うし?」


とは言われても
心が落ち着く訳もなく…。



不安を抱えたまま放課後になってしまう。



会議が行われる部屋に着くと
各テーブルに班ごとに席に着くように指示される。


ほんのちょっとだけ期待した
好きなところに座っていい方式もあっけなく崩れ去る。


Bグループの席にはすでに林くんが座っていた。


…よし。
ちゃんと頑張らなきゃ。


「は、林くん、よろしくお願いします!」


私が声をかけると
林くんは私の方を向いて笑ってくれた。


「今日は柴崎くんはいないんだってね、頑張ろうね。」


「あ、うん。ホントにこんな時に仕事なんて困っちゃうよねぇ、先生も未来を代表に選ぶなんて…」

言った後にしまった、と思う。

こんな時 ってなんだ。

ただ私が気まずいだけじゃん。


「ははは、そーだよなぁ、柴崎くんがいないと寂しいよね、風戸さんは。」


「え?」


「…柴崎くんが仕事って聞いて少し風戸さんと2人きりだなんて考えた俺が恥ずかしいよ。」


そんなことを顔を赤らめて話す林くん。

つられて何となく赤くなってしまう。


「ぁ、あ、か、夏季セミナーなんてイヤだよねぇー、毎日10時間以上勉強だよ?しかも五日間も!私いっつもそんなに勉強してないから…もうスケジュール見ただけで倒れそう!」


よく分からないけど話を逸らそうと
勝手に口が動きだす。


「…そんなに焦らなくていいよ。それに、風戸さんを困らせてるなら謝る。」


「えっ?」


林くんが少し悲しそうに笑う。

「風戸さん、優しいからだよね。俺のこと振ったらこの先会うのに気まずくなっちゃうとか思ってるでしょ?」


「ぁ……」


「大丈夫だよ、俺、振られること分かって告白したから。」


私にしか聞こえないほど小さな声で林くんが話し出す。


「風戸さん、困らせてごめんね。」


「…そんな……困ってないよ!」


林くんは少しだけ私の言葉に驚いたような表情をする。


「困ってない!私は…嬉しかった…林くんが…好きって言ってくれて嬉しかった。でも……私は…林くんの気持ちには応えられない。」


「うん、そっか。」


何かに吹っ切れたように顔を上げる林くん。


「ごめんね、こんなとこで言わせて。もう大丈夫だから。これからも友達として、よろしく!」


そう言ってニコッと笑う林くん。


林くん。
ごめんね。

こんな時でも私のことを気遣ってくれてありがとう。

ザワザワとする会議室の片隅で
告白の返事をしたことは私と林くんしか知らない。


今にもこぼれそうな涙を我慢して
会議が終わるのを待った。

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