ケンカときどきチョコレート
急ぎ足で玄関に向かいながら、いつのまにか火照っていた頬にそっと触れる。
こんなに熱いのはきっと、あいつがあんな顔するからだ。あんなこと言うからだ。
これからひとに会うっていうのに、なんてことしてくれるんだ、まったく。口に出せないぶん、心の中で全力で叫ぶ。
というか、そもそも。何かの冗談じゃないのか。洸太が、あたしを好きなんて。顔を合わせればケンカばっかりのあたしを、好きなんて。
廊下が一直線なのをいいことにぐるぐる考えながら歩いていると、玄関にたどり着いたのにも気づかずに足を動かし続けて、段差でドスンと尻餅をついてしまった。
…地味に痛い。それに、なんて恥ずかしい。生まれたときから住んでる自分の家で、どうしてこんなに間抜けに転んじゃうんだ。
「なっ、何の音だよいまの!大丈夫か!?」
本気で焦った声とバタバタという足音とともに洸太がリビングから飛び出してきて、ひっくり返っているあたしのそばで、驚いたように足を止める。
あたしはお尻をさすりながら立ち上がると、どんな顔をすればいいのかわからずに引きつった顔で答えた。
「えーっとね、……すべっちゃった」
「……は?」