ケンカときどきチョコレート
口をぽかんと開けた洸太が、理解不能とでも言うようにあたしを見ている。その表情とさっきまでの真剣な顔との違いがおかしくて、状況も忘れて思わず口角が上がる。
「いやー、その、ね。ほら、つまり、さあ。……そこの段差で、こけちゃった、みたいな」
いまいましいその場所を指差ししてそう言って、アハハハハーと自分で苦笑い。ほんと恥ずかしすぎる。あたし、バカだ。口に出した事実のひどさに落ち込む。
絶対笑われるだろうなあと思って洸太の様子をうかがうと、案の定。
「っ、ぶふぉ!おっまえバッ、バッカじゃねえの!!ありえねえー!!」
盛大に吹き出されていた。肩を震わせて、お腹まで押さえてヒイヒイ言っている。
あんた、あのキリッとした顔はどこに行ったんだ。いやまあ、戻ってきたら戻ってきたで困るんだけれど。
「そっ、そこまで笑わなくてもいいじゃん!」
確かにいまのはあたしが抜けてたんだけど。段差で尻餅とか、自分でもありえないと思うんだけど。
それでも、バカにされっぱなしがムカつくのはきっと、長年積み重ねてきた時間と、アホみたいな口ゲンカのせいだ。
「いーやありえねえ。絶対爆笑もんだぞ、いまの。おまえお笑い芸人にでもなるつもりかよ」
「んなわけないでしょーが!頭どうかしてんじゃないの?」
「おれは常に正常ですー!どこかの誰かさんみたいにひとりでボケたりしませーん!」
「だーかーらー、違うって言ってんでしょ!事故だよ、事故!!」