ケンカときどきチョコレート
「もう、また負けた~!」
本日何度目かの嘆き声が、ふたりしかいない部屋に響く。
また笑われるかと思ったのに、少し前から口数の少なくなった洸太は、十七回目のレースが終わりいまだ連敗中のあたしをからかうこともせず、あろうことか見たこともないような真剣な顔であたしを見ていた。
いつのまにかゲームのサウンドも消え、代わりに秒針と衣擦れの音が耳に届く。さっきまでのレースとは違う、指先がピリピリする緊張感を感じて、あたしも洸太をまっすぐに見た。
いつもは暴言しか吐かない口が、ゆっくり開く。
「……あ、あのさ。おまえ、…チョコレート、作ってないの?」
「ーーーえっ?作ったけど……?」
何を聞かれるんだろうとかなりソワソワしていたから、予想外の質問に拍子抜けする。そんな顔で聞くことか?と疑問に思いながら笑って答えると、ぎゅっと寄って固まっていた眉毛がピクッと動いた。
そのまま黙りこんだ洸太は、あたしをちらりと見てうつむくと軽く目を閉じてしまって、視線のやり場に困る。テレビ画面を穴が開くほど凝視しながら、まるで雰囲気の違う洸太にひとり驚いていた。