勝手に古今和歌集
そのとき、ふいに、あたりが暗くなった。




不思議に思って海面を仰いでみると。






「ーーーーーきゃあぁぁぁっ!?」






わたしの悲鳴が無数の泡となってこぽこぽと海面へ立ち昇っていく。





その泡ごと包み込むように、わたしに向かって落ちてくるーーー網。




月光の網じゃなくて、ほんものの網。




地曳き網というやつだ。





わたしの周りで楽しげに踊っていた小魚たちは、慌てた様子で身をよじらせ、細かい網の目の隙間から通り抜けていく。




少し大きな魚は網目をすり抜けられず、為す術もなく網に囚われた。





それは、わたしも同じ。




魚たちよりもずっと身体の大きいわたしは、どうあがいても網から逃れることができなかった。





それどころか、もがけばもがくほどに網が腕や髪にきつく絡まり、身動きさえとれなくなってしまった。





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