勝手に古今和歌集
舟の上の人影が、意表を突かれたような声を上げた。




若い男性の声。





わたしも唖然として言葉を出せずにいると、彼はすっとこちらに手を伸ばしながら、






「なんだ、溺れていたのか?


とりあえず上がれ………」






と言って、わたしの腕をぐっと掴んだ。





力強い腕がわたしをお腹のあたりまで引き揚げる。





そのとき彼が、「うぉっ!?」と目を丸くした。






「…………なっ、お前、な、なんで裸なんだ……?


お、驚いた………」






彼は気まずそうに目を背ける。




月明かりに照らされているその頬は、ほんのりと赤らんでいるように見えた。





「………いつも、こうなの」





小さく答えると、彼は





「か、変わってるな……」





と呟きながら、さらにわたしを引き揚げた。






< 78 / 93 >

この作品をシェア

pagetop