勝手に古今和歌集
何を言っているのか分からず、わたしは唖然として彼を見ていた。




すると彼は涙目になって笑いをこらえながら、わたしの身体に絡まっている網を解いてくれた。






「さぁ、海に帰りな」






そう言って笑った顔が月明かりに照らされて、わたしはその精悍な顔つきに見惚れた。





でも、彼はぼんやりしているわたしを抱きかかえ、優しく海の中に落とした。





わたしは海面すれすれのところでくるりと一回転して、波間から顔を出す。






「………あの、」





「もう捕まるなよ、間抜けな人魚姫」





「………ありがとう……」






わたしがなんとかそれだけ口に出すと、彼はにかっと笑い、巧みに櫓を操って、すいすいと遠ざかっていった。






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