勝手に古今和歌集







ちゃぷん、ちゃぷん、と波がぶつかり合う音が聞こえる。




ゆらゆらと波に揺られながら、わたしは月の海を眺めていた。






「………いないわ。


あの人にはもう、会えないのかしら」






網に捕らわれてしまったわたしを助けてくれた王子様。




あれから、わたしは毎日毎日、彼のことを考えている。




彼の面影が、彼の笑顔が、わたしの頭から離れない。





だからわたしは、あの晩に彼と出会った時間になると、必ず海面まで上がって、彼の舟を探すのだ。





それでも、いつもいつも、彼には会えない。





今日も、東の空が明るくなってくる時間まで待っていたけれで、やっぱり彼の姿は海のどこにもなかった。





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