勝手に古今和歌集
わたしはため息を吐き出して、海の中に潜った。





自然ともう一度ため息が出てしまう。



わたしの憂鬱な思いは海の泡となって、ぱちんと弾けて消えた。





ああ、この泡みたいに、わたしの気持ちも消えてくれたらいいのに。




あの人に会いたい、というこの気持ち―――





そんなことを思いつつ、わたしは尾びれを左右に動かして、海の底へと戻った。





住処にしている大きな貝殻をぱかりと開き、中に潜り込む。





遠い海から集めてきたやわらかな海藻を敷き詰めたベッドに横たわり、眠るときに羽織る夜の衣を取り出した。





丈夫な海草で編んだ衣は、人魚の肉が大好物な鮫から、わたしの身を守ってくれるのだ。





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