初春にて。
 突然、いきなりの喪失感と共に、何かが私の口に差し込まれた。
 彼が意地悪な笑みで、ほら、と促すから私はゆるゆると舌先でそれを辿る。彼の指先がひたひたにふやけていた。
「いい?」
 少し焦れたような、余裕のない彼の様子が嬉しくて、なんだか泣きたくなる。
「うん、……どうぞ」
 枕元をまさぐると、彼は私に背を向けた。初めて躰を重ねた時から、彼は絶対避妊を怠らない。俺、ヘタレやし、と苦笑いで言うけれど、私の事を大切に思ってくれているからこそ、必ずそうしてくれるのだと強く感じる。
「収入も責任も何も無いのに、野放しで子ども作れるほど、俺は図太くないし」
 照れ隠しでわざとふざけた風にそう言うけれど、それでも私は嬉しくて、その時は不覚にも泣いてしまったほどだった。
「……ユズ」
 ベッドの軋むリズミカルな音と吐息紛れの言葉と淫猥な水音に、私の心と躰はもう覚束なくなっていて、ひたすら引き離されないよう彼の躰に縋り付くので精一杯だ。
 彼もまた、それ以上に強く私の躰を抱きしめてくれる。
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