初春にて。
「うーん、……ねぇ」
 苦笑する私を横目に、彼がわざと大げさな関西弁の抑揚をつけて文面を読み上げるのは、単なるウケ狙いなんだろうか、それとも。
「まぁ、こいつらの事やから、どうせくだらん理由ちゃうんか?」
「……どうだろ」
「そうじゃなきゃ、凛子が田舎暮らしに嫌気がさしたって辺りが妥当か」
 不意に。大きな社の鎮守の杜で、厳かに執り行われた古式ゆかしい挙式を思い出した。仲人さんに手を引かれ静々と参道を歩く新婦の白無垢姿は何とも清楚で、そのくせふいに綿帽子から覗き見える口元の紅が妙に艶やかで、ちょっとだけ羨ましかったのを覚えている。
「で、行くんか? これ」
「行くって?」
 彼が指をさしたのは、カードの裏側の隅っこに走り書きされたメッセージ。彼に指摘されるまで、その存在に全く気づかなかった。

『追伸・やっぱり僕に必要なのは柚香だけだと解りました。当日、会えるのを楽しみにしています』
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